しょくぎょうふじん⑤ 「ロボジー」の吉高由里子

 

現代の「天然」「不思議ちゃん」はぶりっ娘に非ず 

 去年大ヒットしたTVドラマの逃げるは恥だが役に立つ Blu-ray BOX、私実は殆ど観ていないのですが、とにかく不思議でしょうがなかったのは「え、新垣結衣演じるヒロインのことをぶりっ子と断ずる視聴者の感想は一切でてこないのかい?どうして?」・・イヤ私何もドラマ自体を否定するわけではなく、主人公はごく当たり前のことを男性に主張していてそしてドタバタしながらごく普通に主人公の主張や願いが叶えられていく展開のような印象だったもんですから(笑)。それに一喜一憂してはまっていたうちの妹のような独身女性たちの感覚の変遷に驚いたのでした。それは新垣結衣の演技が相手に対して常に下手に出ることがなかったということなのでしょう。おそらく彼女の演技の中には所謂「男を手の平で転がす」だの「何かしら媚びを売る」だのが無かったのだろうと思います。・・・んでコレは主に作り手よりも、新垣結衣世代の演技の質が変わってきたのが主な要因ではと私は考えています。例えばLove Letter [Blu-ray]中山美穂酒井美紀花とアリス [Blu-ray]鈴木杏蒼井優はおんなじ岩井俊二監督でヒロインたちの恋愛観等が大して変化していないようなのに両者比べると驚くほど各女優の表現方法が違っていて時代の変化を感じたもんです。・・・で、「ロボジー」の吉高由里子新垣結衣とおんなじ世代。そしてこの世代のもう一つの特徴として、漫画みたいな役柄を演じても浮かない、があります。だからこの映画の突飛な設定が成功したのでは?と。

なんだか澱んでいるオトコたち

 地方にあるそこそこの規模の木村電器では「他もやってるし、ウチでもできるだろう」くらいのノリで二足歩行のロボットの開発をすることになりました、でも開発期間はたったの三ヶ月。若手エンジニアの小林(濱田岳)太田(チャンカワイ)長井(川島潤哉)の3人はそれでもロボット博の1週間前には何とか「ニュー潮風」というロボットを作りあげるのですが、社内のお披露目の際にロボットが不慮の事故で暴走し大破してしまいます。困った3人はロボットの外装だけを作りあげ中に人間を入れてごまかすことにしました、そして選ばれたのが独居老人の鈴木重光(五十嵐信次郎)なの。ここまでのくだりが何故だかテンションが低く、それなのになぜだかクスクス笑いを誘うのが不思議でした。心の奥で「ええ?この爺さんミッキー・カーチスじゃね。クレジットにあったっけぇ」とつぶやきつつ(笑)。五十嵐真次郎という名前はミッキー・カーチス氏が戦時中日本の名前に憧れて自分でつけた名前だそうですよ。そして鈴木老人を始めやる気の無さそうな木村電器の人々に喝を入れる為に登場するヒロインが映画のテンポを徐々に変えていくのでした。それがロボット博で鈴木の着ぐるみロボットに魅了されちゃった女子大生の佐々木葉子(吉高由里子)なのだっ。私は最初観た時すごい驚きました。今でも監督の緻密な計算の勝利なのか吉高由里子の暴走がすごすぎたのかよく分からないくらいです。

不思議ちゃんではなくて就職氷河期を耐えている就活女子

 葉子はロボット博に来ていた女子大生としてまるでニュー潮風に恋したような素っ頓狂な感じで登場します。でも私彼女が出てきた時最初なんかいやーな気がしたんですね。ありがちな気がして。彼女のやってることも人気者になったニュー潮風が全国営業に出た先を自転車でニコニコしながら追っかけるとか、もうラノベとか深夜アニメに出てくる不思議系美少女そのもの。ただ生身の吉高由里子が演るとなんか佇まいがホラーなんですね。ずっこけて転んで顔に漫画みたいな黒いアザ作っても「やたら堂々としている」・・・噂には聞いていたけど、ここまでヤバい娘だとは思いませんでした。でも彼女は大学でロボット研究会に所属していて就職もロボットの事がやりたいから根は真剣なんです。あまりの熱心さにおびえた小林たちは葉子が木村電器に就職試験を受けに来ると面接で冷たく追い返してしまうしね。この映画いい意味で薄っぺらい人情喜劇といおうか(笑)小林たちや鈴木老人が実は心の奥底に深い悩みを抱えているとか、また人生で何か大切なことに気がつくとか、力はいった前向きな人は一切登場しないのでぇ、クライマックスどう収斂させていくのか笑いながらいささか不安にはなってくるのですが、元気が無いけどかつては日本の高度成長を築いた花形企業のなれの果ての姿や就職氷河期を必死に乗り越えようとする若い女性の姿や、何していいか分からないし若い人の邪魔をしないでひっそり暮らしたいけど構ってくれると嬉しい♡爺さんの姿が浮かび上がってくるのでした。だから茫洋としたミーキー・・・じゃなくて五十嵐真次郎を中心とした演技陣はみんな面白かったです。(チャン・カワイあんまり好きじゃなかったのですがこの映画で少し見直したのだった)

2011年当時の日本

 「ロボジー」は2012年のお正月映画として封切られました。前年には東日本大震災が起きて中東ではジャスミン革命チュニジアやエジプトで政権がひっくり返った年です。結構いろんな事があった年に北九州等でロケしてたってことですよね。2017年の今振り返って映画に登場する下関や北九州の風景や北九州大のキャンパスが映っているのを観るだけでもココから5年でいろんな事が変わっちゃったんだなって感慨になるかもしれない。映画の舞台は一見元気なくて寒々しい気もするけど、ピンポイントではまだまだ可能性あるかもみたいな明るい兆しが見えたりもする。んで、そんなに無理して急いで結果出さなくても良いよね~みんないっぱいいっぱいだし、てどこかすっとぼけて終わってた。そうそうこの時はまだ「地方に行けばまだまだ日本は凄い」で単に日本スゴイじゃなかった。「ロボジー」と今の日本スゴイ系コンテンツを比較すると、一地方企業、地方都市の抜け駆けは許さないぞおお~という猛烈に管理したいと監視したい気分が横溢していて、日本スゴイ系コンテンツには観るとぐったりしてしまいます。「ロボジー」に漂うゆるさが既に懐かしいものになっているのだっ。