フォークロア(民俗学)の女 ④ 「神聖なる一族24人の娘たち」の娘さんたち


映画『神聖なる一族24人の娘たち』予告編

「運命の人」に出逢いたいなあああ♡

 この映画気前よく若い娘のハダカのお尻やらパンツやらおへそやらおっぱいやら登場しますし、ベッドシーンもありますが上品なキャラの娘が好きな男性にとってはあんまり楽しくないかもしれません。映画終わって劇場を出る時の二十代の男性の表情が「もの凄く疲れてた」んですね。あと年配の男性は淡々としていた・・・。とにかく娘たちの性の希求が「あっけらかん」とし過ぎるの(笑)。矢継ぎ早にショートストーリーの数々が繰り出されてくるので哀しい話、滑稽な話、不思議で寂しい話・・・があってバラエティに富んでいるんだけど、やっぱりニホンの今時の若い男どもからするとあまりにも「女性上位」の世界なのかな。舞台はロシア連邦の中央にある「マリ・エル共和国」の一地域、「マリ」ていうのがそこの古くからの言語で「夫、男」という意味なんだけどね。なんとなく映画観ていると男性の方がより辛そう・・・に感じなくもない。

滑稽なカップルや家族の話

 映画は雪深い中、春を告げるお祭りのエピソードから始まり春夏秋冬(もっとも晩秋から初冬にかけてくらいでまた冒頭近くのエピソードに戻る)を通じて語られていくのです。臨月近い主婦がDV夫を「もうアンタは必要ないねん」とばかりにブチ殺す話で幕を開け、お医者さんごっこならぬ「赤ちゃんごっこ」に興じる十代の男女(やり取り聞いてると強烈に情けない&どスケベです)に、死んだお父さんを遺族や友達が歓待する「まるでニホンの春のお彼岸やあ」の話、中年の美魔女が姪っ子でまだか細い少女の身体を「もっとエエおなごにならんと」って互いに素っ裸になって乾布摩擦する話など、昔の日本の田舎でもありそう~♡がいっぱいでむしろシニア女性の方が観て喜びそうです。おかげで映画の配給会社が主に女性向けにプロモーションしていたのにも納得。まあその間に自分の夫が森の精霊に横恋慕され呪いをかけられて、失意のあまり妻が命を絶つ等の不思議な話も混ざってきます。

恋の予感

 んで、おそらく最近の若いお兄ちゃんが観たら辛いのかなあ・・・と思うエピソードも。初夏の川遊びなのか若い女の子2,3人でハダカで緑の川辺を駆け上がっていく姿を遠くに見つめる青年に一人の少女が話しかけてくる、とかね。ここのシーンのハダカの女の子たちがまるでルノアールの絵画に出てくるような素晴らしさなんだけど、青年には話しかけてきた少女の方が意中の人だったみたい・・・。あとアラフォーぐらいの男が公民館のセミナーだか何かなのかずうっと「結婚できなかった初恋の女の子との初体験した時」を真面目に語っていて周囲も感動しながら聞いているとか。「彼女とは一緒になれへんかったけれど何も僕恨んだりせえへんです。ホンマあの時の彼女は優しくて、あんな真っ黒い石炭の下でヤッたのに彼女は細い体でぇ・・・」ってな調子。あと少女が祖父に「運命の相手が欲しい?ほなこのコイン投げて、投げた先にアンタの運命の男が見つかるわ」・・・少女が半信半疑でコインを遠くに投げると、茂みの中で密かに〇〇〇していた少年と出っくわす・・・この後の少女と少年のとのやり取りがこの映画の中ではもっとも普通の恋愛映画の芝居っぽくて、その後すぐにシーンが切り替わって祖父がゆりかごの赤ん坊に向かって「そんな風にして二人は知り合って二年後にこの子生まれましてん」って語るとかね、なんだか知らないけど今時の若い男が観ると「心が辛くなる」かな?少なくとも映画の中のぴちぴち&豊満な女の子や熟女たちのハダカがことさら輝いているだけに、エロい気分だけどより寂しい気分にも陥るかもね。

マリ共和国の「オトコはつらいよ」

 そしてまたこの映画のモテない男たちの扱いはひどいものだったりする。人生に悩んでいるもっさりした(ホント見た目もっさり)青年が占いが当たると評判の若い娘に相談に行った挙句、娘の「占いの秘儀」をうっかり目撃したもんだから後日娘の家族にいきなり殺されるとかさあ。でもそんなのは序の口だから(笑)。高慢ちきで自惚れの強い娘(歌は得意だけどそんなには可愛く無い)が「ウチは都会に出てオペラ歌手になるねん」と言い寄る青年を振り切って都会へ出ていくんだけど、青年は「あんな女魅力的な男に心を奪われてしまえ俺が歌手になるのなんか邪魔したる」と何故か背の高い死体をゾンビに使おうとする話なんかはもうひたすら青年がバカ・・・まあ青年の女の趣味の悪さこそが滑稽だと言いたいんだろうけどさ。

でもあんたら(娘さんたち)だってあんじょう気ぃつけなはれや

 ・・・というお話もあるのさ、結構見どころなので言っちゃうね。ある時(秋も深まった頃)ある村の独身女性達、それこそ二十歳前後からアラサ―近辺までのお姐さまたちが二十人ばかり集まって大人の女だけのパーティを計画している。そこへ10歳くらいの少女がやってきて「私もパーティー出たい」てごねる。お姐さまたち皆しぶるけど、少女に言いつけられたら困るので「アンタはじっとしてなあかんよ」と念を押されてパーティが始まるとお姐さまたちは「なんかトロッとしていて白くて妖しい液体」をこしらえていたのだっ!んでパーティーには何故か都会風のオサレなスーツ着た三人のイケメンというのが招待されていて、見物していた少女はびっくりして途中でパーティーを抜け出してしまう。少女は村の男たちが集まる居酒屋へ駈け込んで、

「大変やで、村のお姐さんたちがなんかよう知らん男たちに白いもんかけられてはるわあああ!」・・・と伝えるので若い男たちも「おのれ!どこぞのガキじゃ!わしらがしばいたるわわわ~」と殴り込みに行くというエピソードです(笑)。まあ私の説明なんかよりはるかにスペクタクル溢れるといおうか、まんがニホン昔ばなしならぬロシア昔ばなしって感じの面白さでありました。

マリ共和国はヨーロッパでも珍しい「自然崇拝で多神教ちっくの色合いが濃い」

 ・・・なんだそうです。地図で見る分にはモスクワに近い気がしますが、ロシア正教を布教していた間にソ連邦が誕生し、その間一切の宗教活動が弾圧された所為が土着の信仰が庶民の中から消えないまんま温存されてキリスト教が広まっていないんだと、確かに教会も宗教の指導者も映画には出てこない、ヨーロッパ的な「父権」の姿が見られない分女性たちが皆ダイナミックで、男を捕まえようとするエネルギーに満ちている世界なのかよ?・・・てつい感じてしまいます。でも皆さん男性たちに関して容姿端麗とか金持ちとか頭脳や才能についての理想がばか高いわけではない。「0点のヒト100点のヒト大嫌い、90点のヒト好きじゃない、65点のヒト好きや」なカンジで素朴にお相手選択しているだけなんですがね~それでも65点のヒトと擦れ違うことも近すぎて見えないこともあるてことかいな。慎重に取ってきた「きのこのサイズ」吟味した上で「うちはこれっくらいのサイズの男がええわ~」とにんまりイメトレして微笑む少女の姿は実に微笑ましいですけど。予告篇にも出てるよ。

 監督は気鋭の方で次回作はストルガツキ―兄弟原作にチャレンジするんだとか。おそらく(それこそタルコフスキーのような)ストイックな映画にはならなさそう。