IF(たられば)の女 ⑦ 「遊星よりの物体X」のマーガレット・シェルダン

 

 

遊星よりの物体X-デジタルリマスター版- [DVD]

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 THE THING FROM ANOTHER WORLD・・・とにかく名作

 興味深い(interesting)けど面白いか(fun)どうかは保証しかねるかもしれないね、二十一世紀の現代からしたら。リメイクのジョー・カーペンターズ版でさえもはやSF映画としてはクラシックの粋だし。OPのクレジット観ると「ハワード・ホークスプロ」の製作で名匠ホークスは監督を自分の弟子に託してプロデューサーにまわっている。(でもかなりの部分自分で監督したらしいけど)ホークスは1938年発表の短編を30年代中には映画化権獲得して1951年になってようやく公開にこぎつけたのだっ。でもそんだけ力いれていたこの作品を現代の理科好き小学生が観たらおそらく「えーっ!動物の血なんか養分にしなくても植物は呼吸をするものだよー」とか「なんだかキャプテン(大尉)と博士の秘書役のお姐さんがいちゃいちゃしてる婚活映画じゃんかあ」・・・などと鋭い突っ込みをすること必至でしょう。(笑)当時やっと脚光浴び始めたばかりの「SFジャンル映画」を成功させるために、低予算で済む新人でキャストを固め、RKOニューフェイスのマーガレット・シェリダンを売り出すための映画にしているからなんであります。だからキャストでも一番最初にクレジットされるのはヒロインのシェルダンだし、最終的にXをやっつける大まかな方針を決定するのも彼女なのだよ。

11月のアンカレッジにしちゃ、皆さん薄着のような・・・

 冒頭ではそんな感じがしたのですが(室内シーンだしね、パッと見暖炉だけで暖房しているようにしか思えない(笑)実際北極が舞台になっているのでアンカレッジの平均マイナス30度に近い他の州(ギリギリ北極の環境に近い所でロケしようと冬場マイナス20度になる)地域で組んだそうです。マイナス30度を下回ると当時のフィルムはバリバリになっちゃうんだとか。ある日アンカレッジ基地に極地で研究しているキャリントン博士(ロバート・マーンスウェイト)から巨大な隕石が近くに落ちたと連絡が入ります。ヘンドリー大尉(ケネス・トビー)のチームが日頃から博士と懇意なので研究所に向かうと氷の下に巨大な物体を発見。周囲の磁力計は物体のおかげで狂ってしまって物体から磁力が出ているのは明らか。爆弾を使って氷から掘り起こそうとしたのですが物体の大半は爆発によって破壊され残ったのは凍った人体らしきもの一体だけ。それを研究所に運んだところ温まったらしく動き出したの、犬ぞりのイヌがいきなり襲われたみたい。姿も音も立てない怪物なんだけど凍った状態の時から放射能を発してたので、ガイガーカウンターで怪物の襲撃を感知して奴の襲撃に備えましょう・・・とハナシはあっという間に怪物退治の展開になります。でもヘンドリー大尉は研究所の報告を受けた時から博士に逢いに来たかったんじゃなくてお目当ては博士の秘書のニッキ(マーガレット・シェリダン)だったから新発見の物体を運んできてもそっちのけで彼女の所へ入りびたりなんだけどね。ニッキはそこらへんのオトコよりよぽど酒に強くて酒につぶれたヘンドリーを置いて帰っちゃったとかひたすら男女のいちゃいちゃが続きます。でもそんな二人がいいカンジになりかけた途端に怪物の襲撃が本格的になるのだっ。

少ない味方で襲撃を迎え撃つ「必殺勝利の装置」

 装置というのはかの蓮實重彦センセの命名で特別に「ホークス装置」とまで呼んでおります。なんか活劇映画の際に必ず必要な美術・小道具・システムというか・・・まあいまどきのTDLUSJにあるアトラクションの概念(アイデア)の原型を観ることができるっていうと誰かに怒られるかもしれないけど。(でもそれが説明としちゃ一番解かり安いかとも(てきとー過ぎるけど笑)・・なんだかそんなもん。ホークス装置として有名なのはピラミッド [DVD]の砂がいっぱい入ってくるのとか赤い河 [Blu-ray]に登場する牛の大群とかなんでしょうが、「遊星より・・・」の場合は研究所の食堂とか電熱装置のある地下室という「密室」になります。そこへ怪物を追いこんで皆でやっつけるってこと。やっつけるのは良いのですが怪物は結構長身で怪力で不死身(犬に腕を食いちぎられてもまた生えてくるのさ、植物生まれだからねぇ♡)なものですからどうしようということになってヒロインのニッキがアイデアを出す「火よっ!」って。そんで食堂に研究所の皆で立てこもって怪物がやってくるのを待つの、ガイガーカウンターが反応するの、ドア開けて怪物が入ってくる!、そしたら皆で怪物に火をつけちゃおう!食堂のクッションも燃えるし危ないから消火も忘れずにね~(笑)実に効果的で簡潔な解決策。でも怪物は完全には燃えてなくなってはくれなかった。(だいたいそんなことしたら建物も燃えちまうし)それに一杯あったはずの灯油が無くなって火責めは無理だね。そうだ電気を通すのはどお?って話にいなったんだけど、そしたら電気まで止まりやんの。キャリントン博士だけは怪物の発見が惜しいから死なせたくないんだよ。そこはまるでエイリアン ブルーレイコレクション(5枚組) [Blu-ray]みたい・・・ホークスの死後続々と登場するSF特撮映画の設定が全部揃っておりますね。

原作者のジョン・W・キャンベルというお方

 原作は「影が行く」という短編で怪物の正体もホークス版の「植物の妖怪」みたいな単純なものではないようです。そこらへんはジョー・カーペンターズの「遊星からの物体X」の方が原作の雰囲気に近いのだとか。アマゾンレビューでホークス版が好きじゃないヒトの感想に「映画自体が人種差別そのものを描いていて厭、ハワード・ホークスって人種差別主義者なの?」という内容がいくつかありましたが、原作者ジョン・W・キャンベルがバリバリの白人至上主義者だったそうで、そのテイストに関しては素直に出ているのかもしれません。ハワード・ホークスの映画はいつでも簡潔、合理的がモットーでそこにユーモアを加えることによりヒーローと互角に渡り合うヒロインが活躍したり、移民社会アメリカの雑多な人々の描写にほっこりできる・・というのがパターンになっております。「遊星よりの・・・」でも研究所の職員、軍人、ジャーナリストといった人々が危機に対して一致団結するという展開にはなってますよ。ホークスの映画だと同様にSFっぽいのはコメディだけどモンキー・ビジネス [DVD]もありますけど尖がっている分どこか奇怪な印象を観た後受けるヒトが多いのでしょうか。ウィキペディアハワード・ホークスについて読んでみたのですが、映画作家として圧倒的に評価されているフランス等のヨーロッパ諸国ほど米国では(特に一部のうるさ型の観客、評論家サイドには)人気無いみたい。ノーベル文学賞もらったウィリアム・フォークナーがブレーンだったとか聞くとホークスの周りはインテリ集団のサロンか何かかよっ・・・て昔からイメージしていたんですけどウィキでの執筆者達の態度は割と冷淡なカンジだったのが意外でした。

 ちなみにキャンベルというSF作家&編集者は映画監督ホークスと同様二十世紀に起こった新しい文化のジャンル黎明期において活躍し、後進の人々に讃えられるタイプのお方なんですが晩年は「デューン」シリーズのハバートさんが作ったサイエントロジーにはまり込み自分が育てたハインラインアシモフ等の錚々たるSF作家たちに疎まれてしまったのだそうです。しかしサイエントロジーっていつ頃からあれほど盛り上がったのか?日本の私メにはいきさつさっぱり解からんのですが。