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ヤサグレ女列伝 ④ 「カジノ」のシャロン・ストーン

カジノ [Blu-ray]

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 シャロン・ストーンの代表作

 ネット上の評判を読む限り、「シャロン・ストーンの役は大馬鹿だけど、エロい」、「オンナの情念が凄い」、「男無しでは生きられない女を好演」・・・およそ自立志向の強いイマドキ女子にはとてもお奨めできないような映画ではありますが、騙されたと思って是非観てほしいです。90年代のメジャーハリウッド映画のトレンドとして大物俳優同志がやたらと激突するのがウリ、ってパターンが多かったなかでも「カジノ」でのシャロン・ストーン程、ロバート・デニーロジョー・ペシと互角に渡りあって女優という枠を超えたレベルに達した女は殆どいなかった。特に彼女と同年代の女優さんたちは自分が主役のロマンチック・コメディーか主演男優の相手役をおとなしく演っていただけだったもん。で、当然のごとくゴールデン・グローブの主演女優賞をゲット、アカデミー賞でも主演女優賞ノミネート・・・だけじゃなく取っても良かったと私は思いますがねぇ。ラストに壮絶な夫婦喧嘩があって、ジンジャー(シャロン・ストーン)は夫エース(ロバート・デニーロ)の車をボッコボコに破壊しつくしちゃう・・・「あんなキツイ顔だちの女が下品にが鳴りたてて車のオカマ掘っちゃうトコなんか、演技というよりも地でやってるんじゃないかぁ」とか「けどアタシはシャロン・ストーンのこと好きだからさぁ、こういう役でオスカー取ると却って彼女のキャリアの為にならないと思うのよね(怒)」という声でもあったのかいなとつい想像してしまいます。

 とってもキレ者のミスター・ロスティーン

 主人公のエースことサム・ロスティーン(ロバート・デニーロ)は故郷シカゴで不法賭博のノミ屋(予想屋)をやっていたのだけど、とにかく天才的に予想を的中させる凄腕の男だった。あんまりやり手過ぎて警察ににらまれるようになった頃、地元のマフィアのボス達からベガスのカジノ経営を任せてもらえる話をもらう。エースは頭脳明晰だけど地元のマフィアで用心棒のニッキ―(ジョー・ペシ)のように暴力でヒトを支配するような腕力も気力もない。彼はいろいろ考え過ぎちゃうタイプなので、本質的にはギャングになりきれない性格の男として映画の最初は登場するのさ。ベガスに着いたエースにとってカジノの仕事は上納金さえ渡せばギャングのボス連中はウルサイこと言わないし、賭け事で一番儲けられるのは胴元のみという一番オイシイ部分をコントロールできるという「本当のやりがいが見いだせるパラダイス」なのだった。エースは24時間常にカジノ「タンジール」に張り付いて、従業員やギャンブラーたちに目を光らせている。カジノを損させている従業員がいたら例えそいつが縁故採用でベガスの有力者の親戚でもぼろ糞に罵倒してクビにするし、カジノ内のレストランで出すマフィンのブルーベリーの量まで気にして注意しちゃう。まさにギャングというより有能なビジネスマンとしての本領を発揮しているところへロスティーンに第二の転機が訪れます。シカゴからニッキ―がやってきて「ベガスで活動したい」と言い出すのと、エース自身が恋に落ちて結婚を決意するからです。相手のジンジャーという女性は「タンジール」等のカジノに出入りする女ハスラー(カジノの客に取りついて賭け事のお金をかすめ取るというお仕事というかカジノの華みたいな役割のようだ)、美人で凄腕、気前よくチップをはずむのでカジノの従業員皆にも好かれているという、エースにとっては理想の女性。エースはカジノで汚いコトを処理するパートナーとして渋々ながらニッキ―を迎え、ジンジャーのことは根気強く口説いて結婚し娘をもうけます。でもこうしてエースが40にしてやっと結婚した時が人生の頂点にして転落の始まりになるのでした。エースは切れ者なので自分のことを「ギャング共を上手く利用して成功した個人事業者」ぐらいにしか思っていない。でもニッキ―とジンジャーにとってはエースは売り出し中の新しいタイプのギャングにしか見えてないのよ。だからジンジャーはエースになかなか心を開かなくて結婚にも消極的だったし、ニッキ―に至っては自分もエースのようにマフィアのボスから独立して大立者になれるかもと期待してエースにくっついて行こうとするんだよね。ここらへんまでをエースとニッキ―双方のモノローグの掛け合いで延々45分間ぐらいで見せていくけど、全然飽きない。(忙しないしね)それに映画全体も170分あるけど情報量が半端なく多いので付いていくのに必死だから退屈さはありません。

夫婦の間に横たわる「2万5千ドルの壁」?

 ジンジャーにはしっかりヒモのような恋人のレスター(ジェームズ・ウッズ)がいるのをエースは承知した上で結婚、「俺の好きでなくても良いから結婚してくれ、好きになるよう努力してくれ」とまで言ってプロポーズされちゃ、さすがにこの時代(1970年代)の女性にはなかなか断れんでしょう。それにヒモ男の方はジンジャーのことを金蔓だとしか思っていないから「我慢して結婚しなよ」としか言ってくれないし。エースから見るとなんで聡明なジンジャーが稼いだ金をヒモに気前よくやっちゃうのか理解に苦しむところなんだけど、「ヒモ男に貢ぐような勝気な女ってのはそもそも金銭的な見返りを求めていない」ていう習性が男のヒトには理解できないんでしょうね。でも私からするとジンジャーのような感覚の持ち主の方がずっと現代的だしより自分に正直に生きているタイプに思えるけどな。いわゆる「フェミニストの走り」のようなお勉強ができた女性にはない賢さと本能と欲望に素直すぎ、んでもってこれこそ男性目線から見たリアルな女性像でもあるわけ。エースは終始「ジンジャーが一番愛する物は結局俺がやった宝石」とか「女は金や宝石や子供を与えれば満足するはずなのにジンジャーは違った」などと愚痴ってばかりいます。でもそれは男が女のモチベーションのポイントはどこなのかを理解していないからだけどさ。ジンジャーは2回ほどエースの金を持ち出してヒモのレスターにやっちゃおうとする事件を起こすのだけど、何故かその金額が2万5千ドルという額に収まっている、それがエースには不思議でならない。「なんで2万5千ドルなんだ? 一体何に使ったんだ、何を根拠にして出てくる金額なのか?」とエースはしつこくジンジャーに問いただすシーンが繰り返されるのが可笑しい、(おそらくレスターが2万5千ドルにこだわったんだろうけど)まったくエースの質問に答えられないジンジャーもルックスと要領のよさだけで生きている女の限界を感じさせて笑っちゃうし、「二日間で2万5千ドルをどう使うんだ? 仕立てのスーツでも20着は買って、それをお直して・・・」とひたすら細かい使い道を想像せずにはいられない夫エースはジンジャーよりも妄想的なお金マニアといえるくらいヤバい奴です。そしてただひたすら頑固で変人で怖いギャングでもある夫に対して反論する気もないくらい疲れてしまう妻は段々と夫に仕返しをしたいという気持ちが芽生え始めてくるのさ。ギャングの話だけど、普通の夫婦でもよくある展開だし、並行してニッキ―一家の「妻子に気を使ってマイホームパパしてます」な日常を合わせてみるとエースが妻に対して何か間違った対応をしているのは明らかだと観客にも伝わる。「カジノ」は夫婦崩壊とか家族崩壊の過程を描くホームドラマとしても面白いのさ。

 ほぼ実際にあったエピソード・・・怖くて、哀しいね。

 そんでもって映画の終盤はエース、ニッキ―、ジンジャーの三角関係ならぬ、三つ巴の戦いの様相を呈していきます。最後の最後に目をそむけたくなるようなシーンも続きますが、実際にあったことを再現してるのでしょうがないです。エースのモデルの爺さんは映画製作が決まって自分の役をロバート・デニーロが演ることになってからとたんに協力的になったそうな。(それまで自身への取材お断りだったとか)カジノにやってくる日本の大富豪というエピソードも実在した人物のこと(何故か山梨の不動産王で、バブル時の90年代に地上げトラブルに巻き込まれたのか銃殺されたんだって)らしいです。映画の富豪イチカワさんはデニーロのビジネス・パートナーでもある有名シェフの松久信幸さんが演じているので、山梨の成金の旦那にしちゃあ洗練され過ぎって感じはしますが(笑)

 PV製作されたのは1987年だったのかぁ!

 イマ振り却ってみるとカメラワークとか凄いわ、当時の最新だったんだね。最初観た時「なんか考えすぎちゃって暗いなぁ、スコセッシなんて難しそうなヒトと組むからだよ、スリラーの方が良かったのに」とだけ思ったワタクシがバカでございました、御免ねマイケル。この後グッドフェローズ [Blu-ray]を観たんだけど、当時映画長いわ、展開早いわで物語細部を殆ど覚えていない状態になった理由が改めてよく判ったよ。