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だって僕らはゲイじゃないんだ ⑤ 「ミラーズクロッシング」(90)

 おとこ・オトコ・「男の映画」?

 ひょっとして著しい勘違いをしているかもっ・・・という不安が残っているのでホントはもう一回観直したかったんですがしょうがない、時間もお金も限られているので思い切って言っちゃいますけど主人公トム・レーガンガブリエル・バーン)の行動が終始行き当たりばったりのように思えるのはワタクシの気のせいでしょうか? 観ながら寝ちゃったからだとか? (確かにバートン・フィンク [Blu-ray]観た時は難しくて寝ちゃったことを覚えているのですがそれ以降はコーエン兄弟の映画でに寝入った経験は一度もなかったと思うんだけど)ついでに言うと「バートン・フィンク」の時は気味悪くてちょっと怖くてそれでつい炬燵で眠っちゃったので、「ミラーズ・・・」はおそらくもっと怖いんだろうな、コメディ映画を作るヒトたちがシリアス路線に走るとやり過ぎて怖ーいっ・・・やめよ、と観るのをしばらく遠慮していたぐらいだったからさ。改めてDVDで鑑賞して驚いたのはトムって男のどこらへんが「インテリ」で「切れ者」なんだい? 考えていることったら女(マーシャ・ゲイ・バーデン)をどうにかしたいってだけじゃんつーことだったのでした。

ゴッドファーザー」より「暗黒街の顔役」を思い出しちゃう

 公開当時は主人公が大卒だっていうのもあったのかやたらとゴッドファーザー コッポラ・リストレーション ブルーレイBOX [Blu-ray]と比較されていました。淀川センセイ曰く「なんとなくゴッド・ファーザーに楯突いてるトコあるの」だそうな。でも「ミラーズ・・・」の後にIVCベストセレクション 暗黒街の顔役 [DVD]ってのを観たら私はより近いものを感じました。「ミラーズ・・・」のガブリエル・バーンと「暗黒街の顔役」のポール・ムニのモチベーションの違いを考えるとちょっと可笑しいんだけど、何かしらの換骨奪胎を感じます。ポール・ムニのギャングは(映画観たヒトなら解かるかもしれないけど)最終的には「とにかく女の子にモテたいの」さ。で一体誰に一番「モテたい」のかはさっぱり謎なんだけど・・・「力の誇示」と「世界一いい女にモテて自分のやってることをしっかり認めてもらえたら」の衝動がごっちゃになってマシンガンブッ飛ばしているのが「この世界は僕のモノっ♡」の顔役さん。そしてなーんにも考えてないクセしてすぐに開き直っちゃうガブリエル・バーン自身が取りつかれている衝動も実はポール・ムニとさして変わりありません。(ゴッドファーザーアル・パチーノの場合は家族思い過ぎてモテたい衝動が今いち発揮しきれないのよね)冒頭ではバーンバウム弟(ジョン・タトゥーロ)に何を言われても優柔不断と言おうか、ぐずぐずやり過ごす間に考えをまとめるだけで精一杯のカンジなのに、突然スイッチが入ったように毅然としだすの、バーンバウム姉(マーシャ・ゲイ・バーデン)は弟の為には何でもやると女だと理解した瞬間からね。おもわずトムの親分格で盟友関係にあるレオ(アルバート・フィニー)はつい気押されちゃって「やっぱりお前のように大卒の人間の言うことは違う」とか口走っちゃう。この後もトム・レーガンは「大卒は違う・・・」みたいなことを他でも言われたりするのですが、なんかそれ自体が悪い冗談なのか? みたいに思って鑑賞しちゃいました。

お姉ちゃん(マーシャ・ゲイ・バーデン)の方は「マフィアの情婦」っていうよりなんか「活動家の女性」っぽいカンジが・・・

 バーンバウム姉弟は小さい頃からいかにも暗黒街を二人で生き抜いてきたって方々、姉はナイトクラブの芸人だかホステスだかっていう職業ですが、まあギャングのボスの愛人として主に界隈では通っている。弟の方は競馬のノミ屋業で何とか地元の大ボスの目をかすめ取って儲けようとしている。舞台がシカゴみたいな大都市ではなく、田舎町だから市長も警察にしろ町を牛耳るアイルランド系ギャングのレオ一派とイタリア系のキャスパー一家、どっちも嫌いなはずなのに日和見ですぐにギャング達の言うこと聞いちゃうホントにせこーい小さな世界、そんな程度でしかないのにバーンバウム弟はのし上がりたくてしょうがない。で、トムはそんな弟を見ていてどっかイラっとくるものがあるんだよね。お前身の程を知れよ、とかこんな小さい町の覇権争いに本気で食い込んで意気がったってカッコ悪いだけじゃんとかね。トムのこういう態度にそむしろたくさんお勉強した人間が得た知性の真骨頂を見出した方がいいのかもしれません。レオはそんなトムに敬意を払っていているのか自分の愛人を寝取られても案外怒らないし、弟の方は「姉のことを狙ってやがる男」であるトムを少し警戒していてできれば出し抜いてやっつけたいと思っているみたい。・・・じゃあそんな姉のヴァ―ナってそんなにいい女で美人かっていうとそんなことは全然なくて、私は知的で物分りの良い学校の先生みたいな女だなあと思いました。そして「女教師」みたいな熱心な女性は「弱者に心を配る活動家」っぽかったりするんですよね。彼女が男たちに身を任せても必死に庇おうとする弟って実は同性愛者(ゲイ)ていうマイノリティで守ってあげないとひどい目に合ってしまうもの、なんですから。

 結局ガブリエル・バーン=トム・レーガンは一体どこがカッコ良かったのか?

トムは必死に策を労したというより、気が付いたらレオ一派VSキャスパー一家の抗争を焚き付けちゃいましたみたいになるし、バーンバウム弟のヤツは「やっとこれで俺様が日の目を観る時が来たね、ありがとう」なカンジでトムに接近してくるし、ふざけんじゃねえぇぞ! その気になりゃお前なんてなあ・・・てなトコですが、でも正直言ってこのゲイの弟のことがトム(そしてレオもキャスパーにとっても)にはちょっと怖い存在なの、浅知恵のはずだけど何考えているか分かんない、平気で命ごいするくせに相手がほだされた瞬間に背後から撃ってきそうなヤツ。虐げられているのに慣れているからこそタフ、っていう演技でジョン・タトゥーロは一貫して卑屈なのに妙に貫禄ある(だから姉ちゃんより老けて見えるくらい(^^ゞ)のだ。「暗黒街の顔役」の主人公兄妹が上下そのまんまひっくり返ったのが実はバーンバウム姉弟ていう存在だからね。だから「ミラーズ・クロッシング」でジョン・タトゥーロが結局死ぬだけなんだけど、観客はまるで凡ての片がついたようにホッとする。レオやキャスパーが幼稚で滑稽にもみえるギャングの怖さを表現しているとすれば、バーンバウム弟=タトゥーロはもっと暗ーく不当に扱われているマイノリティがギャングになって社会に牙をむくという側面を表現しているといっていいでしょう。それにしても凶悪なギャング+生い立ちが同性愛者という設定なのは90年代に入ってからだったてのが、今振り返ると信じられないですが本当にこの映画が最初だったみたいですね。そのおかげかガブリエル・バーンは「ミラーズ・・・」以降渋い個性派として一時代活躍しましたし、何故だかブライアン・シンガーのようなヒトにまで出演を懇願されるようになりました。ただどう考えても最終的には主人公トムは結局姉ヴァ―ナには振られるはずだと気が付かなきゃいけないんですけど、ラストその辺のシーンはあったような記憶が無く、なんかひたすらアルバート・フィニーとのハードボイルドな芝居で終わっちゃいましたね。ガブリエル・バーンが一番カッコ良かったところって結局どこでしたっけ? やっぱりもう一度観ないと駄目なのかな。