都合の良い女②「婚前特急」の吉高由里子

 Warning! (あらかじめ忠告しておくぜ)

 もしも興味があったなら、いい歳したオンナに「あなたの知っているなかで複数の男性と付き合っている女性の知り合いがいたら結局それはどういうタイプの娘なのか教えて欲しい」と尋ねてみてください。たいていは「そりゃ性欲も物欲も並はずれている肉食系のヤリマン女でしょ」もしくは「そういう女の子っていうのはね、悪女ぶっているのは口先だけで、付き合っている複数の男性には何もさせないことが実は多いのよ。結婚するまではそういうのは取っときたいのとか平気で言って男を振り回してるだけ。恋多きくせして身持ちの固い、妄想型の潔癖乙女よ」と二種類の女性たちを紹介してくれることでしょう。そんなぁ、もっと普通にセックスにも関心があって、結婚結婚とか騒がず、それでいて情熱的で恋愛体質の女の子も世の中にはいるかもしれないじゃんなどど考えたか分かりませんが、先ほど言った「二種類に分かれる○股女」を男性の考える都合の良いようにカスタマイズした可愛げのある我が儘女がこの映画のヒロインの森下チエ(吉高由里子)になります。吉高さんの天性といっていいコメディエンヌのカンの良さとその相手役に現役ミュージシャンでもあるという浜野謙太という人を当てる、かなり絶妙かつ大胆すぎる配役が成功しているので観ているとうっかり騙されそうになりますが、やはり現実社会では森下チエのような女の子は決して存在しないだろうと思います、いくらなんでも。なのでこれは「崖の上のポニョ」特別保存版 [DVD]の青年版の映画であるとか、「モテない男が考える少女マンガ」のような映画だと見立てて、常に寛容なる視点で鑑賞しましょう、女子たち。鑑賞する人をかなり選ぶという意味ではまさに典型的な「都合の良い女」映画です。


 さらに忠告しておくぜ

 映画の導入部は五人の彼氏と並行して付き合っているチエが親友(杏)の突然のできちゃった結婚に遭遇して動揺をきたし、「今アタシが結婚するとしたら5人のうち誰が一番適当か査定せねば」と決意します、この掴みといえる部分がまずクセモノでありまして、「婚前特急」というタイトルは女性の結婚願望のスパートぶりを一見茶化しているように観客は取るでしょうが、本当は杏の語る「結婚って結局勢いでするものでしょ?」というセリフこそが「特急」と呼ぶキモであることがやがて分かってきます。そうしてチエが5人の査定のうち、いちばん評価の低いパン工場で働く田無タクミ(浜野謙太)を振っちまおうとしたところ、「え、俺たちって身体だけの関係で付き合ってなんかないじゃん」という言葉にチエが過剰に反応し、急に田無に対して執着し始める展開から、特に女子にとっては「アレ? アレレ? なぜにそうなる?」というまるでミステリー映画に変わった?かのような宙ぶらりんの状態になってしまうのでありました。これは森下チエが「5人の男と付き合っているものの、肉体関係までいっているのは田無一人だけ」という女子目線的にはほぼリアリティゼロともいえる裏設定を理解するのに困難を極めるのと、そして大変申し上げにくいのですがおそらく大半の独身女性にとっては浜野クンって生理的に受け付けないであろうなあという強烈すぎな存在感のおかげです。そして美女と野獣ともいえるカップルのなれ初めのエピソードがとっても酷くて、そして結構ソコソコ面白いというのが、また非常に困ったところでありまして、まずこれで「一回目の出会いではまだ二人は結ばれてはいないよ」と好意的に受け取る人間がどれだけいるだろうか・・・世の中には生真面目な人間がたくさんいるものです、そう田無憧れのライバルヒロインのミカちゃん(石橋杏奈)よりもずっとね。なのでさすがにここはもうちょっと何とかしなきゃダメだっただろ! て苦言を呈したいと思います。というのも、昨今の日本映画で恋愛心理を描くのに決定的ともいえる欠陥「この彼と彼女は果たして肉体的に結ばれているか? そもそもヒーロー、ヒロインは童貞? 処女?」の詳細について直接的なラブシーン無しで演出するのが凄く下手という課題に果敢に取り組んで、かなりの部分成功している映画だからです。

 それでもしつこく忠告しておくぜ

 森下チエの「裏事情」についてのショックもおさまり、「なんだ彼女はずーっと男を査定し続けない事情があった故、男を股がけせざるをえなかったんだね」と、とても広いココロで鑑賞することさえできれば映画の後半は日本映画のスタンダードともいえる人情喜劇として朗らかに楽しむことができることでしょう。それでもついていけない女子の方々もたくさんおられるでしょうが、「性の意識と行動は男と女ではやはり決定的に違う部分がある」ということに対して細かいところではどうしても無頓着になってしまいがちな人達が作っているのであろう、おそらくまだ若くてモテない男たちが集まってできた映画なのであろうからそんなに悪気はないはず、って許してあげてもいいのでは。ただし、翻って今度は貴男方に忠告しておきますが、もしもブログを参考にするのならば、結婚を考えているカップルで「婚前特急」を鑑賞するのは不可ということです。特に貴男の彼女が恋人が余命半年という設定の純愛映画みたいなのが大好きだった場合、一緒に鑑賞後二人の間にケッコウ冷たい空気が流れても私は責任が取れません。