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トンデモ悪女伝説③「誘う女」ニコール・キットマン

誘う女 EMD-10012 [DVD]

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 ニコール・キットマンの当たり役のひとつ

 とにかくこの映画でゴールデングローブ賞(主演女優賞)を取ったことはその後の彼女のキャリアに大きな影響を与えたでしょうね。(この時はなにせトム・クルーズと結婚した若くてデカい女という印象がどうしてもぬぐえなかった)1990年に実際に起きた事件をモチーフにしたベストセラー小説の映画化で、なんと原作小説のヒロインが「もし私の話が映画化されるとしたら、トム・クルーズの奥さん、あの人がいいな」とほざいてる記述があってその通り本当にキットマンが主演を演ったというのが笑っちゃいます。私は原作小説を先に読んでから映画を観たのですがそんなに違和感は抱きませんでした、小説の方はより入り組んでいて目線も意地悪なんですが、なにせ出てくる登場人物たちが基本的に皆どこかチャッチイので一見すると底の浅ーい脚色が案外ピッタリくるかなあ・・・て当時思ったのが自分でも不思議。小説も手に入れば一緒に読むことをお勧めします。


 実際大騒ぎになった事件

 原作者のジョイス・メイナードはモデルとなった事件の裁判を傍聴して小説の構想を練ったということだそうですが、当時22歳のパメラ・スマート(高校の講師)が、生徒である15歳の少年と不倫関係になり、夫を殺させたという事件が起こったときは裁判が全米でテレビ中継されました。(日本でも結構大きく報道された)映画のお話が実際の事件よりも尚一層強調しているのは、ヒロインのスーザン(ニコール・キットマン)が何故だか異常なほどニュースキャスターになりたいのという夢に執りつかれているところで、少年(ホアキン・フェニックス)を使って可哀想な夫ラリー(マット・ディロン)を殺す動機も「ニュースキャスターの夢を叶えるには邪魔だから」というもの。小説ではどうして主人公スーザンがニュースキャスターになろううと思うのかとか、中より上のリッチな家庭で育った彼女(十分可愛いんだけど、それでも全米レベルでいったらイッターい女の子)の勘違いと妄執がこれでもかと描かれて、ヒロインの崩壊っぷりまでの軌跡がにぎやかに楽しめる内容なのですが、映画では全米市民の記憶を呼び覚ますように、これでもかとテレビ番組の描写やメディアの熱狂ぶりがフューチャーされています、こういうところはガス・ヴァン・サント監督は得意ですね。


 どこまでも気の毒だと思うんだけどなマット・ディロン

 ただ映画公開時にも一点だけ気になったのは、ヒロインは結局ホントは冷感症のオンナであるという原作の設定を踏まえていないところでして、夫に対しても少年についても「自分に都合の良いように操るために」気前よくセックスするだけなんだという描写が一切省かれていたことでした。冷感症の悪女なんて悪女系の映画ヒロインの性格としては基本中の基本だし、フィルムノワールの冷感症チックな悪女ものでも「このオンナは俺を陥れたのかもしれないけど、この前あいつとヤッた時の俺は結構イケてたはずだっ、かなり頑張ったし」ってやたら反芻するのがダメ男主人公の芝居ドコロだったりするのですが、この映画の場合「冷感症のヒロイン」描写を封印してしまってるのでそういう芝居ができなくなってしまっています。どうしてそういう脚色をしたのか、男性側が一方的に被害者になってるわ、悪女を誰もイカセられなかったわなんてフザケた展開など絶対許されないのだっ!というマッチョな意見が製作者サイドにあったのかは解かりませんが(唯一ホアキン・フェニックスが取り調べ最中にスーザンとの不倫行為を思い出してニヤケるシーンがありますが、私は却ってそれはイタ過ぎないかと思ったよ)やっぱり食い足りない感はありますね。特に夫役のマット・ディロンはこの時期、ガス・ヴァン・サイト作品「ドラック・ストア・カウボーイ」でやや復活していていまして、この後もイン&アウト [DVD]や「メリーに首ったけ」などのコメディで脱力系の脇役では活躍したりはするんですがこの映画ではただ優しくてハンサムという以外はフツ―の人ってだけ。スーザンとラリーのカップルは旦那側の実家はいわゆるイタリア系(物語後半ここがポイントになります)、スーザンの実家はWA○Pという「水と油」な背景があり小説版ではかなり重要なアクセントになっています。さらに言えば実際のヒロインのパメラの夫の場合はすごい女たらしだったそうで「夫の不倫には不倫返しで」っていう動機が実は大半を占めてたそうですから、脚本もう少し工夫しても良かったんじゃないかって気がします。なのでマット・ディロンはとっても存在感があるにも関わらず殺される時のシーン以外は見どころないのよ。そして最近再びマット・ディロン、あんまり顔みなくなったしねぇ・・・


誘惑 (講談社文庫)

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 著者のジョイス・メイナード女史は十代の時からベストセラー作家で、ご当人自身もいろいろミーハーな紆余曲折の人生を送ってるらしいのですが、全編登場人物たちの告白体で描かれているこの小説は面白かった記憶があります。現代アメリカではパメラ・スマート事件は「女性による未成年少年にたいする性的虐待」にあたるという見解がむしろ優勢らしくて、女流作家が描く少年の繊細な性心理描写を今読むと先見の明ありって感じる人もいるかもしれません。ちなみに小説のヒロインはたしか身長160センチもないくらいの「小柄で可愛い」女性でありましてそういうヒロインが「アタシの役をニコール・キットマンに」って指名するんだよね(笑)