ファムファタールな女⑥「ダーリング」のジュリー・クリスティー

ダーリング [DVD]

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 反(アンチ)ハリウッドとしての英国映画

 ずっと不思議だったのですが、フェミニズム系の映画評論というのが1980年代から有名になってきて日本にも続々と翻訳が読めるようになり、私自身も何冊かざっと読みしたところその著者の殆どがイギリスの女性評論家(なおかつフェミニスト運動系)の人達だったことでした。なんでまた英国は映画にだけこのように先鋭的な評論が集まるのか、そんなに英国って映画界に女性が進出しているようにも見えないのに、変なのって思っていましたが(ハリウッド・ロリータという本もイギリスの作家が書いたベストセラーみたいです)とにかく元はご先祖様だぜという意識がそうさせるのか、アメリカ文化の本丸にケチつけられるならフェミニズムでハリウッドを叩くのって効くよね、遠慮なくやっちゃってよってことみたいですね。この映画は1965年製作でフェミニズムとそんなに直接関係ありそうにも思いませんが、監督のジョン・シュレンジャーは自らゲイをカミングアウトしたほぼ最初の映画人の一人でもあるので女性に対しては共感も多少あるにしろ観る目の方が相当厳しいことは確かです。ハリウッドから遠く離れた本場のプリンセスだの、ハリウッドがお手本にしているマリッジ・プロットだのの重要コンテンツを産んだ英国から「ハリウッドが作るシンデレラ神話」の解体を試みようとしたともいえるかも。もっとも英国に憧れちゃっているハリウッドは斜に構えた英国の映画人でも懐柔した上でその後はしっかりこき使ったりするので、当のシュレンジャー監督はこの映画の後はハリウッドに進出し真夜中のカーボーイ [Blu-ray]マラソン マン [Blu-ray]などハリウッド70年代を代表するヒットメーカーになっちゃったりするのでした。

美貌で、若くて、気が利いてる、ただそれだけ

 とにかく観てもらえれば分かってもらえると思いますが、幼いころからダーリング(愛しの子ちゃんとか可愛い子ちゃんとかいう意味なのか?)と周囲の大人たちに呼ばれて甘やかされてきたヒロインのディアナ(ジュリー・クリスティ)は実力もないのに若い娘っていうだけで世間をわたっていく、というそれだけのお話だったりはします。1950年代ハリウッド映画のブリっ娘ちゃんたち(オードリー・ヘップバーンだとかかい?)は自分よりはだいぶ年上のおっさん達と付き合ったり、同じブリっ娘でもシャーリー・マクレーンみたいにおっさんクサいけど本当は若者のジャック・レモンと付き合うようになるといった過程を経てだんだん中産階級的なヤングカップルな物語へとシフトしていったのですが、ディアナの場合は地味なインテリサラリーマンのロバート(ダーク・ボガード)との不倫だったり、いけすかない中年の金持ち男のマイルズ(ローレンス・ハーヴェイ)とのやや変態ちっくなアバンチュールだったりするのでした。・・・ていうかその当時のハリウッドでは女性主体の恋愛映画の相手役にダーク・ボガードだのローレンス・ハーヴェイみたいな役者、起用しないってば。もうこれだけで、ロマンチックラブ感がないもんね。自立した現代女性の感性でいけば、自分はかなりイケてると思い込んでるおっさんたちが、何もモノを知らないバカな小娘に何か小言を言われてうろたえていたり、彼女にちょっとでも認めてもらいたくて、やたら突っ張る姿にイラッとくるのでしょうか、それとも案外ディアナが羨ましかったりするんでしょうか。思わず「イイとこのお嬢でも、美人でもない人間には関係ないじゃんか」と突き放してばかりもいられないのは、このディアナが男遊び三昧で運命が没落するのではなく逆にますます栄光を手に入れるところでありまして、モデルにスカウトされるや超売れっ子になって自分自身がお金持ちになっちゃうし、モデルで撮影した先のリゾートであるヨーロッパの小国の王様に見初められてついにはプリンセスになっちゃうからなのさ。それでも彼女の取り柄は「女としての魅力にに自信があって、負けず嫌い」なところだけだし、調子に乗って「力のある男たち」の周りをフラフラしてただけだったのですが。

 皮肉がいっぱい

 アカデミー賞ではジュリークリスティーの主演女優賞の他、脚本賞、衣装デザイン賞を受賞しています。結構大盤振る舞いって感じもしますが当時のハリウッドが英国映画に期待している要素(先端ファッション、文学性の高い人間ドラマ、ヨーロッパの香りのする洗練された若手女優)が揃ってたってことでしょう。今どきの若い人にはホロ苦いシンデレラストーリーで片付けるには結構なんじゃこりゃっていう謎を感じるところもあるかもね。例えばディアナは「私セックスとかってあんまり好きじゃないの」ってゲイの男友達に言ってみたりしたかと思うと、一緒に地中海にバカンスに出かけるやゲイ友が狙ってた可愛い男の子取っちゃたり(もちろん身体張ってですよ)します。変態気味のローレンス・ハーヴェイと付き合ってた時には「本当に彼女まだセックスには興味ないじゃん」て思えるシーンもあるのでそれ程嘘ついてるとも思えない。この時代はまだ女の業っていろいろあるのさとか若い娘のセックス好きだの、嫌いだのはアテにするなていう大人の男の教訓がきちんと浸透していたからでしょうか、物語全体に皮肉がいっぱいあるのを楽しむと面白く鑑賞できます。それにしても皮肉っていえば、当時のスタッフとしてはモナコ公国に嫁いだグレース・ケリーをモデルにしたとか、しないとかって聞いたことがあるのですが、どう考えても映画自体が後に英国王室に嫁いだダイア○妃登場の予言にしか思えないことですかねぇ・・・本場英国のファム・ファタールはヒネリが利きすぎ。