ファムファタールな女②「ギルダ」のリタ・ヘイワ―ス

 リタは映画史上名高い、とってもエロいマドンナのひとりなんだから

 ・・・てことなんでしょうな、この「ギルダ」がとりあえず観ておいた方が良い理由は。有名な腕のローブを脱ぐだけの「ストリップな振りつけ」のダンスパフォーマンス以外は見どころあんまりないかもって言えるちゃあ、言える。何となくフィルムノワールの代表作として取り上げられることも多いですが(特に日本だと人気作「ショーシャンクの空に」のイメージとダブってフューチャーされてるかもね)おハナシは割と平凡なメロドラマ。話の後半の展開からすると、ジョン・ヒューストンとかハワード・ホークスの映画だったらもうちょっとシャキッとしてないか? て一瞬思ったんですが、そういう監督たちの映画で活きるタイプでもないのがリタ・ヘイワ―スかも。写真見ると、いかにもセクシーなお顔の表情ですが、私にはちょっとだけとっても美人の牝牛に見えたりします、スイマセン。半開きの唇からなんだか「MOW!(もぉ♡)」て言いそうなの・・・でこの湧き上がる感覚こそが、かつて日本の年寄り連中が言うところのやっぱり何だかバタ臭いんだよねぇ、外人さんはつうことなんでしょうか。

 
 第二次大戦時代のセックスシンボルが背負った「隣のきれいな奥さん」

 もともとリタ・ヘイワ―スは両親がダンサーで自分も12歳の時から舞台に上がっていて、本当にプロフェッショナルな表現者としての一面を持っています。対するエバ・ガードナーなんかは「裸足の伯爵夫人」なんかでもダンサー出身の役なのに殆ど踊れていないようなので観る人がみれば「単なる顔だけのヒト」に思われてもしかたのないところがありますね。リタのほうが女優としてちょっとだけステイタスが高いということはそういうことです。劇中でリタがよだれ垂らして観ている男どもの前でダンスパフォーマンスをするのはいつも主人公ジョニー(グレン・フォード)に嫉妬させて挑発するためで、本当に愛してるのはジョニーただ一人・・・ていうか男女の「心のすれ違い」だけで構成されている映画だったりします。リタがドレスのファスナーを閉める時は男にやらせようとするのがもう一つの誘惑の手段なのですが、映画の最初のシーンではまだジョニーの雇い主ベイリン(ジョージ・マクレディ)と新婚ほやほやのくせして元彼のジョニーに「ファスナーお願い」って頼んじゃうし、ベイリンが行方不明になってジョニーと結婚してやたら束縛されると怒って他の男たちを誘惑するダンスを踊っちゃう。その時の締めのセリフが「ドレスってキツイのよ」みたいなので、ファスナーおろすの手伝ってというジェスチャーと一緒にやるもんだから周りの男ども大騒ぎ! まさにセックス・シンボルな瞬間です。これがマレーネ・ディートリッヒになると彼女もプロではあるんですが、あくまでも女優の余技としての歌とダンスとなるわけで間諜X27 [DVD]なんか観てると「前戯全開」ってカンジになります。ディートリッヒは欧羅巴からやってきた偉大な愛人なので前戯に趣向をこらすのがいいのかもしれませんが、やはり本妻さんとはちょっと違うんだよねというのが男の本音なのでしょうか。女性のグローブ取ったりするのを見てたり、ファスナー下げたりするのは当時としてはまさに「夫の特権」といえるものであり、それを芸術に近い表現に高めたリタ・ヘイワ―スは男たちを「昇天」させちゃったのでした。戦争に行った兵士たちが「早く家に帰って奥さんのいるベッドでMAXを極めた後、ぐっすり眠りたい」と思い浮かべながら手にしたピンナップの女優がリタ・ヘイワ―スであり、「隣に住んでるキレイな奥さん」のシンボルだったり「彼方のキレイな奥さん」のシンボルだったでしょう。
 この手の「エロいけど本当は良妻」というのは現代のハリウッドでもある種の定番だったりするのかデスパレートな妻たち シーズン1 コンパクト BOX [DVD]シリーズに出てくる一番良妻賢母でなおかつ常に欲求不満気味の人妻のブリ―(マーシャ・グロス)は4人の妻たちのなかでは「しっかり」赤毛になっています。そんでもってシーズン中彼女の夫が二人ほど「昇天」するわ、そして次の求婚者が現れたりするわ、いつまにか4人の人妻のなかでも一番モテるようになっていました。リタ・ヘイワ―ス効果ってやつでしょうか。

 今回ファムファタールについてということなので改めてご紹介。今の時代の読者からするとタイトルから「フィルムノワールの入門ガイド」を想像するかもしれませんが私が早川文庫版で読んだときはもうちょっと広義の意味での女優論だったり映画評論だったりしてました。こっちの方は早川版に大幅加筆されてるとか、でも「美女と犯罪」に紹介されてもまだ観れてない映画いっぱいあるかなぁ・・・