何だか不運な女⑤「ローラ殺人事件」のジーン・ティアニー

ローラァ!!

 ローラっていう名前の女の子、あなたならどんなイメージを持つのでしょうか? 例えば「ローラだよっ」の最近おなじみ、ハーフタレントのローラちゃん、往年の名作ドラマ大草原の小さな家 DVDコンプリートBOXの主人公で元気なローラ、それとも西條秀樹の昭和の名曲「傷だらけのローラ」のドラマチックなヒロインでしょうか(当時はヨーロッパでもヒットしたらしい。私はほぼ幼児体験だったんで「なんじゃこのアツ過ぎるトランス状態は・・・」と怖かった)そしてこの映画の原題は「ローラ」というのですが(だいたいタイトルですでに最初のシチュエーションをばらす日本版の映画タイトルってどうなんでしょう)そもそもローラって名前の響きには何か人を幻惑させる魔力があるような気がしてなりません。映画自体もほぼなんじゃこのアツ過ぎるトランス状態は・・・な雰囲気に満ちた傑作でございます。


「死美人」に首ったけ

 物語はローラという若き女流のコピーライターが自宅前で惨殺されているところから始まります、生前美しかった顔は吹き飛ばされて可哀そうに・・・てね。主人公の刑事(ダナ・アンドリュース)は通報してきたローラの友人で著名なエッセイスト(クリフトン・ウェッブ)からローラの人となりを延々と聞かされて、彼女がいかに美人で頑張り屋で、素直で性格も良いかということを徹底的に叩き込まれてしまいます。ローラの肖像画を前にとうとうと語るクリフトン・ウェッブの凄さと回想場面で登場するいきいきとしたローラ(ジーン・ティアニー)の姿に観る方が圧倒されるので、刑事さんが思わず死人のローラに惚れてしまうという設定にあんまり驚かなくなっちゃうんですね。やっぱこういうのがハリウッドのフィルムノワールって映画史のなかでもとっても重要とか言われるゆえんなのでしょうか。この「ローラ殺人事件」は米フィルム・ノワールというジャンルの作品でもトップクラスで、主演のジーン・ティアニーもフィルムノワールを代表する女優として有名なのさ。


でもジーン・ティアニーってそんなにいいオンナかぁ?

 会ったこともないのにローラに半ば「囚われちゃった」刑事はローラの婚約者でどうもヒモ体質らしいプレイボーイ(ヴィンセント・プライス)にも話を聞きます。で、そのうちなんだか知らないけど刑事とローラの彼氏と友人のエッセイトという三者の間で心理的な緊張感が生まれ、それが物語中盤になるやもう本気(ガチ)で三どもえの対決に変わっちゃうんですね。(なんで変わっちゃったのかは映画のお楽しみということで)この後半パートに至って納得できる人と納得できない人が、この映画の好き嫌いを決めるでしょう。男のヒトは間違いなくハマるタイプが大部分でしょうが、女子的には「アカン、つまらん、結末見えた」という方もでてきそうですね。意外なんですが最近の若い女子は「一人の美女を数人の男どもが争う」みたいなメロドラマをむしろ嫌うという傾向があります。そんなわけないだろうと叫ぶ男子たちもいそうですがホントに本当です、羨望より嫉妬のベクトルがより強いのが女だからというのが最近の若い女子界では常識だといえましょう。またジーン・ティアニーって、その手の嫉妬深い女子の標的なりそうな美女なんですな「男のヒトって結局あんまり個性がなくて普通っぽいのがいいのよね」いうかんじの女優さんだもの。ついでにいうと女子目線でみると彼女のように気真面目で常識的でしかも神経質とは無縁、みたいな女性をセクシーと捉える男性の感覚が理解できないところがあります。アカデミー賞助演を取ったクリフトン・ウェッブの迫力を「ヘンなの、若い女だっていうだけで入れ込むジジイ」以上にしか思えない女子の方はあまりこの映画に現代性を感じないでしょう。米国でもそんな傾向があったのかどうか、90年代にリメイクされた「ローラ・・・」といっていいツインピークスだと既に死んじゃった優等生ローラを巡ってひたすら「健全さの仮面の裏」ばっかりを大騒ぎするドラマシリーズになっていました。ローラに囚われて嫉妬や共感のトランス状態に陥るのもララ・フリン・ボイルをはじめとする「ツインピークス・ガールズ」と呼ばれる若手女優たちの役割であったのよ。「安定」とか「バランス感覚の良さ」を知的な女性の魅力としては重んじない傾向が徹底されたのが90年代からで、それは今でもずーっと続いているのが女子の世界での現状であります。

 バブル時代の恋愛観を少し疑ってみよう

 けど私はこの映画、男の本音がかなりむきだしになっている部分が相当あると思います。でなきゃここ10年ぐらいでじわじわ日本でもメジャークラシック映画としてフューチャーされてきた理由がわかりません、日本人は男女とも「一人の美女を巡って・・」などというプロットは好きではないし、出る杭は打たれる文化ですから女性が美貌と才能にあふれて成功したとしても「男運が悪いぐらいで丁度良い」ってなもんで、ローラのようなヒロインを冷笑することはあってもクリフトン・ウェッブのように「できる美人は相応に男を見る目があるはずだ!」という強烈な思い込み(というか恋愛においてもエリート主義)には引いちゃうだけなのですが、こういうエリート男性って日本にも本当はかなりいるのです。そうでないと日本の近代化も高度成長もありえなかったはずですからね。かつてないほど自分の能力を社会で発揮したいという女子の方々はたまにはこの映画観てもうちょっと男性心理を観察してはいかがでしょうか。未だにバブル時代の恋愛観、男女観を引きずっている女性雑誌や恋愛サイトのコラムでは「ローラ殺人事件」に登場するような男性はいないですからね。

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 ま、こっちも懐かしいけどね・・・・