何だか不運な女③の番外編「フォレスト・ガンプ」と「散りゆく花」

フォレスト・ガンプ [DVD]

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 死んだのを観届けて、やっと安心できるヒロインたち

 実をいうと「散りゆく花」って「フォレスト・ガンプ」みたいな映画なのか?とずっと思っていました。だってかの偉い映画評論家いわく「観客は彼女が死ぬのを観てやっと安心できる」っていうのがリリアン・ギッシュ演じる薄幸の美少女なわけでしょ、それじゃガンプの幼馴染のジェニーと一緒じゃないですか。「ガンプ」の方の彼女だって、小っちゃい頃は義父の性的虐待に苦しんで、女子大に入ったものの退学になるは、社会人になっても経済的に決して自立することもなく、ヒッピーやったり、麻薬やったり、男から男へとただ渡り歩く人生を送ったあげくエイズで死んじゃうもんね。でも「散りゆく花」が大好きでリリアン・ギッシュ可愛いと絶賛していた淀川長治センセーは「ガンプ」のロビン・ライトに関しては「なんかイマドキの変な女」といって切り捨てておりました。また「フォレスト・ガンプ」はただひたすら「あそこへ行ったらジェニーにまた会えるかも」とガンプが走り回って、ふと気が付くとジェニーが消えちゃうんだよね・・・という挿話の繰り返しになっておりまして、虐待義父と中国人青年との間であっちこっちへと吹っ飛ばされるリリアン・ギッシュをただ目撃しなきゃならない「散りゆく花」とは好対照の構成になっている映画だったりするのです。後日有名なハナシとなりましたが、当初「フォレスト・ガンプ」は映画の父とは違って、強烈な突撃女隊長だか女プロデューサーだかみたいな方が大方を仕切ったらしく、原作者が脚色した脚本が気に入らないんでにクビして「主人公がとにかく足が速いということを中心にして物語を引っ張るのよ!」っていう指揮したらしいです。だから脚本家もトム・ハンクスも監督のロバート・ゼメキスただひたすら走らされたんじゃないかなあって感がありますねぇ、今観ると。


ガンプみたいな男に本当に癒されたかったのかい?

 当時、若い女性達はこの映画を圧倒的に支持していて、私の知っているなかでも「大好きで速攻DVDを買った」という女の子がいましたが、その子はお姉さんがバイリンガルなこともあってか終始「吹き替えが全然正確じゃないし、字幕だと映画の内容が半分も伝わらない」という主旨のことしか言っていませんでした。ガンプについてのコメントはほぼ皆無だったような気がします。日本でもなんとなく「何らかの欠損状態にあるがゆえにピュア」みたいなキャラクターが流行っていたこともあり、女性たちが強くて完璧な男性よりも母性をくすぐるような癒されキャラ男がいいのかっ、という解釈が広くなされていて実際「フォレスト・ガンプ」はその代表的なコンテンツのように取り上げられていました。しかし特に若い女性がこの映画を観る限りにおいては、結局ガンプという男は自分の母親とジェニーという恋人を踏み台にして自己実現していくだけじゃんか、という印象を抱くであろうというような描き方がきっちりとされております。(特に英語に強くなくても)もの凄くリベラルでフェミニズムな主張がぐいぐい伝わってくる映画なのでありました。極端にいえば、白人男性だったら知的障害であろうが、身体障害であろうが頑張ると認めてくれるのがアメリカだけど、黒人や女性に関しては兵士として「使い捨てられる」か、性的な能力を「消費」するかどっちかしないじゃん、ガンプやダン中尉みたくそもそもの学習や挑戦する機会が与えられてないでしょう、ってね。ここらへんはおっかない女性プロデューサー、ウェンディ・フェルマンの功績というのを認めるしかないといえましょう。


 しかしやり過ぎってのは良くないこともあるよね

 ジェニーは「薄幸の少女」とは違ってずーっとガンプに背を向けたまんま、孤立したままひっそりと死んでいきます。ここらへん「本当はガンプのことをどう思ってたのさ」などが気になるタイプの方は特にお気にいらないかもしれません。おまけに最後にはガンプったら一人で残されたジェニーの男の子の「育メン」までやらされる羽目になるのです、これで「人生はチョコレートの箱のようなもの」となるのかぁ・・・てな感じですが、そこへひょこり訪ねてくるんですよね、「ダン中尉」が自分の花嫁を連れて。「散りゆく花」でリリアン・ギッシュをすんごい細眼で見つめていたリチャード・バーセルミよりもさらに細眼で、ガンプと一緒にエビだかカニ漁に出た時も漁船の高いマストの上でキレて騒いでいたゲイリー・シニーズはほぼ「散りゆく花」の中国人青年の生まれ変わりかのように「フォレスト・ガンプ」では活躍します。映画のダン中尉は原作とはかなり違った脚色をされているそうですから、おそらく確信犯的にスタッフが滑り込ませたと断言してよろしいでしょう。「散りゆく花」の時代の若者たちやベトナム戦争時の若い女性、黒人・有色人種の若者達と比べれば、ダン中尉やガンプの人生はずっと人生の選択肢も多いし自由なのかもしれませんが、やっぱ先頭を切って走っている分どうせならたまには女の子とデイジーの花とで一緒にまったりしたい時のために頑張りたいよう、というのが男の本音なんでしょうね。わざわざ「この女性が僕と結婚してくれたんだ」と丸顔のアジア人女性をガンプに紹介するダン中尉は「いろいろ夢見てきた理想はあんまり実現できなかったけど前世で結ばれなかった少女とは巡り会えたよ、だから君も頑張って」と応援しにやってきたみたいです。そのせいかどうか男性にとっては「フォレスト。ガンプ」というとダン中尉はかなり重要キャラクターのようで、ゲイリー・シニーズ自身にとっても代表的な役となったようです。ウチの主人もゲイリー・シニーズ=ダン中尉で通じます。だから皆CSI:NY シーズン1 コンプリートBOX-1 [DVD]観ても「ダン中尉だから、頑固なのはしょうがないよね・・・」と思ってしまうことでしょう。

 最後に後日談として怖かったのが「原作者が没脚本の原稿料を請求して訴訟を起こしたところ、映画の収支が赤字なので門前払いされた」というニュースを聞いたときでした・・・結局原稿料ビタ一文も払ってもらえなかったのかなあ、決着は知らないけど。ハリウッドじゃ没脚本にも原稿料を払うのが一般的で、しかも原作者なんですからね・・・やり過ぎだよ、せっかく大成功したのにこんなことしたら後々良くないことあるんじゃないのかと勝手に心配したものです。まあ、映画公開からほぼ20年たった現在キャスト、スタッフの皆さん大抵の方々が業界から追い出されることもなく、それぞれご活躍し続けているようなのでホッと胸をなでおろしていいるところではあります。

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